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走り抜けた地平線の果ては未来まで繋がっているのだと、僕らはまだ知らなかった ---------------------------------- ささやかだけど、ちょっぴり我が儘かもしれない。 アタシのそんな小さな願いを。 叶えてくれるんは、いっつも平次やった。 「なァなァ、昨日のドラマ観た?」 「観た観た!めーっちゃロマンチックやったな〜」 「おはよ!みんな、何の話してるん?」 いつものように元気に登校して、いつものようにパワフルに盛り上がっている友人たちのいる、いつもの教室、いつもの朝。 昨日のテレビ見た?で始まる、いつもと変わらない話題。 まだまだ恋に恋するお年頃な、中学生女子のガールズトークは、しかし憧れと理想と夢に満ち溢れていた。 「和葉も観た?あのドラマ!今めっちゃ流行っとるやろッ」 「あー、うん、観とるけど…あんま、よぉ分からへんねん」 「何でやッ!?アンタ、服部ばっかり見とらんでイケメン俳優にも目ぇ向けたらどうやの!」 「なっ…!ちゃうって、そんなんちゃうしッ!アタシかて、テレビで見てかっこええなァって思う人おるしっ!!」 「和葉…あんまりそういうこと、大声で言ったらアカンで?聞こえてまうよ」 別の友達に目線だけで平次を示しながら言われて、だからちゃうし…と言いながらも少しだけ気にした様子で、同じ方向を見やる。 当の平次は男子と騒いでいて、まるで聞こえちゃいないようだったのだが。 「ほんで?どこがロマンチックなん?」 「もう何か、全部がええよな!」 「ホンマホンマ!何気ないやり取りがな」 「そうそうッ!別にすんっごいことが起こるわけやあらへんけど、普通の日常って感じ?」 「それが逆にええねん!実際にありえそうで、胸きゅんやわ〜」 「…はぁ…?」 あまり説明になってないような。 内容としては、高校生の付き合いたてカップルの純愛話である。原作は人気少女漫画で、ベストセラーになったとか。 目が合ってドキドキ、手が触れてドキドキ。そんな他愛もない日々を綴ったところが逆に中高生女子に大ウケしたとかで。 …そんなん、毎日やわ。 と、和葉は思ってみる。 まぁ、付き合っているわけではないけれど。 今どき中学生、いや小学生でも付き合っている人がいるのも珍しくはない。だが、そこはまだまだ経験未熟な女の子たちのこと。こういうドラマで胸を高鳴らせるのも、キャアキャアはしゃぐのも、よくある光景だった。 「私、あのシーンがよかったな〜ホラ、二人乗りの」 「あ〜!私もッ!自転車で夕陽の坂道を下っていくところやろ?」 「…何か、どっかの歌で聴いたような…」 「ええよね〜ザ☆青春って感じ!」 和葉の呟きは、夢見る乙女の賛同によって、かき消された。 「あ〜…私も好きな人と二人乗りしてみた〜い」 「やっぱ、一度はやってみたいよな」 「二人乗りで登下校とか憧れるわ〜」 「それ、めっちゃええ!!」 周りの興奮が高まる中、和葉は一人だけ苦笑いして。 「せやけど、自転車の二人乗りって、ホンマはアカンねんて。違反になるらしいで?」 そのひとことで、一瞬、場がシーンと静まる。 「…和葉って、真面目やね」 「しゃあないやん。和葉のお父さん、警察官なんやから」 「警察ゆうても刑事やろ?交通機関の取り締まりちゃうやん」 「警察は警察や。意外と厳しく育てられとるんちゃう?」 「そ、そんなことないけど…」 確かに畑は違っても警察官の娘として、交通違反なんかしたらお父ちゃんが悲しむかもしれへん、などと内心思っていると。 「ほんなら和葉…アンタ、服部と二人乗りしたこととかあらへんの?」 急に別の角度からツッコまれて、和葉は思わず「はぇ!?」と訳の分からん声を上げた。 「あ、ある訳ないやん!何でアタシが、平次と…」 大声で言ってしまいそうになって、慌ててボリュームを下げる。平次と…のあたりなんかほとんど声にならず、ムニョムニョと口ごもって、頬を染めながら下を向く。 みんなこの反応が楽しくて、和葉に平次の話を振ってしまうのに、本人だけはそのことに気付いていないようだ。 「やって、仲ええから…なぁ?」 「ちっさいときとか、あってもおかしくなさそうやん」 「…覚えてへんわ」 それに…と赤い顔のまま呟く。 「平次んトコのオッチャンかて、警察やし」 「「「…ああ〜」」」 一同は、そういえば、とばかりに声を揃え、顔を見合わせた。 帰り道。 平次の隣で歩くのも、いつものこと。 今朝、話題になったドラマの中でも、こんなシーンがあったっけ。 こんな風に一緒に歩いてたら…付き合っているように見えるんだろうか? 普段は気にもしないようなことを妙に意識してしまって、和葉は少しだけ平次より後ろに下がって歩いた。 本当は…少しだけ。 二人乗りだってしてみたい。 いやいや、だけど… そもそも付き合うてへんし! 付き合うてなくてもチャンスはあるかもしれへんけど… いや、やっぱアカンもんはアカンしなァ… などと思考はあっちへ行ったりこっちへ行ったり。 そんな彼女の髪とリボンを巻き上げて、風が通り抜けて行った。 「何や、危ないなァ…」 平次が悪態をつきながら、チラと和葉を見やる。 言われなくても分かる。どうともないか?という目線だけの確認。 そんな何気ない仕草が嬉しい。 まるで、あのドラマのような… しかし今、和葉の目には。疾走していく、その残像が映っていた。 そうか… パッと思い付く。 二人に傍を駆け抜けていったのは、一台のバイク。 大型でごついその車体には、ライダースーツを着込んだ男と、その後ろに掴まった細身の女性の姿。 バイクの二人乗りなら、条件さえ満たせば違反にはならない。 自転車はダメでも、あれなら・・・・・ 「…平次」 「あん?」 「アタシ、あれ乗りたい」 「何や?」 「バイク」 「はぁ!?」 平次は、眉を顰めて振り返った。 中学生がバイクに乗りたい!? 今まで悪ふざけのひとつもしたことのない…とまでは言い過ぎでも、そこそこ真面目に育ってきた幼馴染が、急に何を言い出すやら。 いきなりワルい方向に目覚めたのか、不良に憧れたくなる年頃なのか、はたまた警察である父親に対する反抗期とやらなのか? 「お前…尾崎豊の曲か何か聴いて、影響されたんか?」 「ちゃうて!今の、見てへんかった?」 「…見たけど」 「二人乗りしてたやん?アタシもしたいッ!」 「二人乗り?」 「そうや。平次、バイクの免許取ってよ〜!ほんでアタシを後ろに乗っけてや」 「オレが!?何でオレを巻き込むねん!自分で免許取ったらええやろッ」 「それじゃ意味ないやん」 「どういうこっちゃ!?」 「ええやんか、楽しそうやろ!色んなトコ行けるで?」 何故かワクワクした口調で言われて、平次は呆れ顔をする。 「免許取る言うても16なってからやし、二人乗りできるんは免許取ってから一年たたんとアカンねんで?」 「ええよ、待っとるから」 「待っとるって…簡単に言うなや」 そう言い放って、プイと前を向いた後ろ姿に、和葉の期待は不安に変わった。 平次…怒った? 何か、アカンこと言うたかな… 二年後も三年後も。 当たり前のように傍に居れると思っていたけれど。 そんな確証なんてないのだと、今このときになって気付く。 「…親父が何ちゅーか、やな」 「へ?」 「バイクの免許取りたいなんて、親父が許すか分からへんわ」 「そうやろな…」 こう見えて(どう見えて?)彼の家庭がそれなりに厳しいことは、和葉もよく知っている。 「せやから、お前も協力せぇよ」 「え」 「お前のためや言うたら、あのオバハンたちも折れるかもしれへんからな」 「・・・・・うんっ!」 和葉はパッと顔を上げ、少し遅れた距離を小走りで駆け寄る。 「早くて三年後やぞ?ええんか」 「全ッ然かまへんよ!うわぁ〜、楽しみやわッ!!」 素直の喜んではしゃぐ和葉に、平次もつられて笑う。そこには、しゃあないやっちゃ、という表情も含まれてはいたが。 こんな話をしていただなんて知れたら、またクラスの友人たちに冷やかされるかもしれない。 バイクの後ろに乗るなんて。体を密着させるなんて。 考えてみたら、ちょっと恥ずかしいかもしれない。 けれど・・・・・ その先に見える景色は、どんなものなのだろう? 今と同じなのか、それとも、もっと素敵なものなのか。 どちらにしても、彼と一緒なら、きっと。 どんなドラマよりもロマンチックなんだろうな、と和葉には思えるのだった。 END -------------------- あとがき。 平次がバイクに乗るきっかけってなんだったんだろうな〜和葉ちゃんだったらいいのになぁ…なんて妄想から生まれた話です。平蔵さんキビシそうだから、よくあんな高いバイク買ってもらえるよな〜と思って。 公式でちゃんとした理由あったらすいません。 |
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