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あの頃、君の瞳に映っていたのは 大人には見えない何か ---------------------------------- 「わ!お城だッ、すご〜い!」 カチューシャで留められた黒髪に、あどけない瞳の少女が可愛らしい声を上げて指差したのは――― いかにも妖艶で胡散臭い『お城』を模した建物だった。 本当はあまりよくないのだが、少年探偵団として活動するためには仕方ない、と校区から少し外れた、裏寂れた雑居ビルの立ち並ぶ中に彼らは迷い込んだ。そこに、『ソレ』は突如として異空間のように現れたのだった。 幼い彼女は何を感じてしまったのか、何故かとても興味津々に中を覗き込もうとしている。 その少女につられて、同じく幼いながらも強い探求心を持つ少年二人も、一緒になって入口に足を向けてしまっていた。 見た目は小学生だが、本来は十歳も先輩のはずの眼鏡の少年と、栗色の髪に碧の目を持つ少女が、その様子を見て困惑気味に視線を交わした。 「…言ってあげたら?」 「…いや、言える訳ねーだろ」 相手はまだ純真可憐な乙女であり、子供である。真実を教えるのには、まだ早すぎる。 かといって、夢を壊さずその建物から遠ざけるのには、どう言ったらよいのだろう。 少年は思案して、ふと。 前にもあったな、こんなこと。と独り言ちた。 小さい呟きだったが、そばにいた少女の耳には届いたようで。 「へぇ、いつ?」 「いつって…オレが本当に今くらいの年だった頃だけどな」 「随分と昔なのね。それじゃ、そのとき『お城』に入りたがってたのは、歩美ちゃんじゃない誰かさん、てことかしら」 「ンだよ、その突っかかる言い方は…」 「別に。そのときもどうにかしたんでしょ?参考までに聞かせてもらいましょうか」 何やら含ませた口調に釈然としないものを感じながらも、彼は記憶を手繰り寄せつつ話し出した。 「そう、だな。あんときは…」 「ねぇねぇ、見てッ!」 いつものように遊んでいて。またまた勝手にどっかへ入り込んでしまった蘭を探し当て、連れて歩いている途中。 急に目を輝かせて声を弾ませているから、その視線の先を見上げると。 「・・・・・・」 細い路地にはやや場違いのような、どこか異国の雰囲気を漂わせる建物。 お城…といえば確かにお城に見えなくもない。といっても、一般的にイメージするような西洋風のものではなく、アラビアンナイトの宮殿といった感じだ。 「お城だよね!?新一ッ、こんなところにお城があるなんてビックリ!」 「いやまぁ、お城…っつーか…」 そこかしこに汚れやヒビが目立つコンクリートの外壁は、下品なピンク色に塗られていて、その風貌からは、どことなくいかがわしさを感じさせる。 これを、ある種の羨望の眼差しで眺めている幼馴染を前にして、新一は思わずうなってしまった。 さすがの彼にも、この年では。コレが存在する理由も、いやこれが何なのかさえ分かるはずもなかったが、この建物の放つ独特のオーラに、何か良くないものを子供心に感じたのだろう。 絶対に入ったらいけない。何か大切なものを失ってしまう気がする――― しかし、「入れるのかなァ?入ってみようよ、新一!」だの「お姫様や王子様がいたらどうしよう!?」だのと自分の腕を引っ張って、門を越えようとする彼女を押し留めるためには、うまく説得しなければならない。 思い込んだら人の話を聞かずに突っ走ってしまうタイプなので、これを言いくるめるのには、いつも手を焼いているのだ。 やたらと夢見がちなのも困る。 サンタクロースはいる、とかディズニーランドのシンデレラ城にいるのは、本物のシンデレラ姫だ、などと信じて疑わない(シンデレラ長生きしすぎだろ) まぁ、この年頃の子供にはありがちなことではあるのだが。 対する少年の方が、少しばかり現実を理解するのが早いだけであって。 と、その彼がややあって、嘆息がちに口を開いた。 「やめとけよ。オバケ屋敷かもしんねーぞ」 「…え!?」 蘭の顔色が変わった。やはり彼女の苦手なもので脅かすのが、一番効果があるらしい。 「こんなところに本物のお城があるわけねぇだろ?そういうのは怪しいんだって」 「怪しいって…?」 「父さんから聞いたんだけど…今まで気付かなかったところに、こんな見慣れない建物なんかがあった時には、注意しないといけないんだ。知らずに中へ入っちまうと…」 「は、入っちゃうと…どうなるの?」 「中は…真〜っ暗でな、出口もなくて…入った途端に入り口のドアが勝手に閉まって…押しても引いても開かないんだ。そうなったが最後、二度と出て来られないんだって。いつの間にか建物も消えちまうんだとよ。…暗闇の中に閉じ込められたまま、だぁ〜れもいない部屋の中にずーーーっといなくちゃいけねぇんだぞ…」 「…っいや〜〜〜〜!!」 低く、ひそひそとした口調で言ってやると、青ざめた表情から半泣きの状態になって、新一にしがみついてきた。 「やだやだ!怖いよ〜!は、早く帰ろうッ!?」 「だったら、一人でどっか行っちまうなよな。今度一人になったら、また不気味ィ〜な所に迷い込むかもしれねぇだろ」 「分かったから!し、新一っ!ちゃんと手握っててよ?」 「オメーこそ、離すんじゃねぇぞ、いいなッ」 コクリッと頷く蘭の手を、新一はしっかりと固く繋いで歩き出した。 「ねぇ…本物のお城はどこかにあるの?新一、知ってる?」 薄暗い路地から遠ざかり、見知った風景の通りに出ると安心したのか、蘭は少し元気を取り戻して、新一に訊いた。 「本物のお城ォ…?あー、イギリスとかはロイヤル制度がある国で、王族が住んでる建物はお城みたいに豪華だけどなぁ」 「ロイヤル制度?」 「聞いたことあるだろ?エリザベス女王とかダイアナ妃とか。日本でもテレビで話題になったし」 「そっかぁ、そういう国があるんだ。…じゃあ大人になったら一緒に行けるかもしれないね」 「…そうだなぁ…」 そんな風にキラッキラした瞳で言われたら。 「いつかな」なんて軽く返してしまうのだった。 現実を知るのは、まだ先でいい。 多分、”いつか”は忘れてしまうだろう、幼かった日の約束。 「…ってことだったんだけど。果たしてそのやり方で、あいつらに通用するかどうか…」 むしろ逆効果かもしれねぇな…なんて、すでに潜入する気満々でいる歩たちの様子を見ながら――止めるタイミングを見計らいながら――話し終えると、ところどころ相槌を打ちつつ静かに聞いていた彼女から、思いがけない言葉がかけられた。 「向こうは覚えてるのかしらね、その約束とやら」 「は?」 「約束、したんでしょ。大人になったら一緒にお城に行くって」 「覚えてるも何も…真に受けるかよ、ガキの頃の話なんか。覚えてたとして、今更『一緒にお城に行きたい』だなんて言う年か?」 「あら、そんなことないわよ。海外で挙式するカップルだって増えてるし、女の子はいつまでも夢見るものなのよ」 「…オメーもか?」 「・・・・・一般的に、という意味よ」 心なしか不機嫌な表情になって、ツンと背ける横顔をチラと見て。 やっぱ女ってのは分かんねーもんだな、とコナンは心の中で呟いた。 「それにしても…ああいう『お城』に連れ込むのだけは、やめときなさいよね」 「なっ、バッ…バーロ、んなことすっかよ…ッ!」 急に飛んできたその一言に、返す言葉を詰まらせ、動揺したせいで、三人の子供が入り口を開けようとしていることに気付くのが少し遅れた。 END -------------------- あとがき。 ラブホの話とかやめろよ自分…でもときどき、本当にお城!っていうやつありますよね(^_^;) あれを子供が見たら絶対、不思議に思うと思うんだ…(あと何か船みたいなのもあったりする) でも新一は基本、一人暮らしだから連れ込まないよ!(どういう意味だよ) |
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