| アットホームダッド ---------------------------------- 「お前、やっぱりアイツに似てきたなぁ…」 団欒中に、ぽろりとこぼしたその男の一言は、食卓にいた二人の注意を引いた。 「どうしたのよ?急に」 実の愛娘である蘭は、一瞬止めた箸を改めて動かしながら訊く。 「いやなぁ…ちょっと前までは本ッ当によくできた娘で、一体誰に似たんだか、なんて思ってたんだよ」 自分から切り出しておいて、なぜか少し歯に物が挟まったような口調で言う。 実際、母親が家を出て別居という形になってからというもの、家の中のことから父親の世話まで一手に引き受け、今となっては主婦並みにこなすようになった彼女は、娘というよりまるで、女房役とでも言った方がしっくりくるような有様で。 その彼女の、いずれは亭主の座に収まりたいだなんて思ってはいるものの、今は事情があって仮初めの小学生を演じつつ、居候という形で家族の中に放り込まれている少年は、この親子のそんなやりとりを目の当たりにする度、どこか複雑な疎外感というのか、壁のようなものを感じてしまって、輪に入れず傍観するより外ない。 「大体、英理のやつは家事と呼べるものは何ひとつ満足にできねぇんだからな。 …特に料理がからっきしダメってのが致命的だよ。よく言うだろ?男は胃袋で掴め、って。 勉強ばっかりして、男に尽くすようなことなんか一切学んでこなかったタイプだぜ、ありゃあ。俺も蘭みてぇな、しっかりした嫁さん貰いたかったもんだ」 「お父さん!それは言い過ぎよッ!?それにお母さんだって、編み物は大の得意なんだから!!」 仲が良いとはいえ、蘭はだらしのない父親より母親の味方なのだ。 いつか両親が和解して、元のように一緒に過ごすことを願って止まない彼女は、さすがに箸を置いて立ち上がりかけた。 隣にいたコナンが、慌てて宥めようとする。 「冗談だっつの。 …ったく、幼馴染なんてぇのは厄介なもんだよな」 「…えっ?」 その言葉に。声を上げた蘭と、表には出さないものの、コナンは内心ビクリとして。 「だって、そうだろ?アイツが料理できねーなんつーこたぁ、ずっと見てきて分かってることだしよ。他にも色々と知り過ぎてて… 正直、結婚して家庭に収まるような女じゃねぇな、なんて思ってたくらいだよ。それなのに・・・・・」 小五郎はヤケにでもなったのか、グイとビールを煽り、先を続ける。 「それでも、惚れちまったもんは仕方ねぇだろ」 「・・・・・・・・・・」 テレビの音がやけにうるさく聞こえる。 いつも明るい食卓が、妙な空気に包まれて静まり返っていた。 ちらり、とコナンが横目で蘭を窺うと、彼女は父親の意外な、それでもって恥ずかしい告白に、口を半ば開けたままぽかんとその姿を眺めていた。 普段だったら、お母さんが帰ってくる日も近いかも!?なんて喜ぶべきところなのだろうが、小五郎の性格からしておおよそ似つかわしくないセリフに、親のラブシーンってこんなにも気恥ずかしいものなんだ…と改めて新一の気持ちが少し分かるような気がしてしまった。 頬を朱に染め、変な顔つきのまま固まってしまった娘を見、 「って、何で俺がお前らにンな話しなきゃいけねーんだよッ!!」 「知らないわよッ!そっちが言い出したんでしょ!?」 「ね、ねぇ!蘭ねーちゃんのどこが、おばさんに似てきたのっ?」 やにわに元のペースに戻って言い合いをする親子の様子に苦笑して、コナンは場を取り繕うように口を挟んだ。 「あん?いや、どこっつー訳じゃねぇけど…雰囲気とか仕草とか物言いなんかが、な。なんつーか…」 「お母さんがいなくて淋しいって実感してきたんじゃないの?お父さんだって、もう若くないんだから」 「うるせー!俺はまだそんな老けちゃいねぇよッ」 と言いつつ、口の中に物を入れながら叫んだため、気管を詰まらせたのか激しく咳き込んだ。 「ほら!もう〜気を付けてよ?」 言わんこっちゃない、とばかりに、蘭は父親の背中をさする。 「とにかくお前らもな、慎重に考えろよ?わざわざそんな近くにいるやつ選ぶ必要ねーんだからなッ」 「いっ、いーじゃないのよっ!…それよりっ、お父さん飲み過ぎよ!?」 「ンな酔ってねーー!!」 小五郎の言う『お前ら』というのが、この場にいる”自分”に対してなのか、はたまた蘭と新一のことを言っているのか判別がつかず、コナンは反応に困って、黙々と食事を続ける。 まさかおっちゃん、オレの正体に気付いてるわけじゃねーよな…? それは考え過ぎだろうが、その言葉に対して蘭が否定しなかったことに気付いて、口元がにやけそうになるのをなんとか押し殺した。 「ちゃんとしてくれないと… あ〜あ、早くお母さんが戻ってきてくれないと、わたし…お嫁にも行けないわよ」 何気ない蘭のその言葉に、小五郎の顔色が変わる。 「おっ、お前!まだ二十歳にもなってねーだろうがっ!もうそんなとこまで進んでんのかッ!?」 「…ちっ、違うわよッ!早とちりしないでよねッ!?」 「ごほっ!ごほごほっ…」 今度はなぜかコナンまでもがむせてしまった。 END -------------------- あとがき。 これ、コゴエリですらないよね…(汗) 新一は胃袋どころか色々とがっつり掴まれちゃってますですよ。 それにしても小五郎さんがまだ37歳だってことにちょっとびっくりしてたりして…45くらいかと思ってました(オイ) もはや蘭や新一よりも小五郎さんと年齢近いんだな…と思ったら、時間の流れって早いな〜と感じる今日この頃。 |
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