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Shiny day ---------------------------------- 「ん〜ッ!」 幼馴染の家へと向かう途中、蘭はグーッと両腕を突き上げ、大きく伸びをした。 本日晴天。 朝の軽やかな暑さと、時折、頬を吹き抜ける涼しげな風。それは、陽に透けて栗色に艶めく髪と膝上のスカートの裾をフワリと揺らして、彼方へと流れていく。 ――こんな気持ちのいい朝に、まさか寝坊だなんて信じられないわね。 それも、あり得る。 連日、睡眠時間さえも惜しんで、推理と謎解きに明け暮れている彼なら。 できれば、そんなことじゃないといいけれど。 インターホンを鳴らす。5秒待つ。応答なし。 二度目を試みる。…同じく返事はない。 数回それを繰り返したところで。…まさか、という思いが頭をよぎる。 また、事件?それとも… ウソだ、そんなことない。 だって…約束、したのだ。もう、あんなことはないと。彼自身が、強い眼差しと口調でもって、そう、告げたのだから。 でも…胸を締め付ける不安は、急速に高まっていって。 まだ、そうと決まったわけじゃない。 朝に弱い彼のこと、気付かず爆睡なんて可能性も十分にある。 夕べは事件なんて連絡はなかったはずだけれど、突然発生するのが事件であって、飛んで行ってそのまま…ということだって考えられるではないか。 大丈夫だ、信じてる。けれど、確かめずにはいられない。 こんなときのために…かどうかは不明だが、一応預かっている合鍵で玄関をそっと開け、「お邪魔します」と律儀に、それでも控えめに言って中へ入る。 以前と違って、家主の気配を取り戻した屋敷内。勝手知ったる何とやら、でまずリビングや台所の様子を窺う。まだスタートしていない朝の、静まり返った空虚感が漂うだけで人影はない。 それなら…彼の寝室。自室に鍵をかける習慣がないのか、必要がないのか、ドアノブを回すとカチャリと難なく扉は開いた。 …あ、いる。よかった… 片隅のベッドの上には、シーツを頭からかぶり、子供のように丸まって寝息を立てている部屋の主の姿。 珍しく安眠しているところを起こすのは忍びないのだが、何せ休学期間が長かったため、これ以上授業をボイコットさせるわけにはいかない。 心を鬼にして、肩に手をかけ、力いっぱい揺さぶる。 「新一、起きて!新一ッ!?」 「…っ、んー…ぅ、むぅ…」 何やらむにょむにょと小さく不明瞭な言葉を発しているが、聞き取れない。ミノ虫が更にダンゴ虫になったかのように縮こまって目覚めを拒否する。 こうなったら強行手段に及ぶしかない。 シーツを力任せに引きはがし、カーテンを開け、眩しい日射しを部屋いっぱいに行き届かせた。 「んん〜っ…」 巻き付けていたシーツを引っ張られた拍子に体が反転して、やや上向きになった顔をしかめ、腕を上げて光を遮ろうとする。 ヨレヨレのTシャツにしわくちゃの短パン。何ていうだらしない恰好だろうか… 明るくなって目の当たりにしたその姿に呆れかけ、万が一、全裸なんかで寝ていたら…と考えて、蘭はヒヤリとした。なんて、ドラマの観すぎだろうか。 「ほら!しゃんとして。外はもうこんなにいい天気なんだからッ」 枕元に手をついて覗き込み、威勢のいい声をかける。 新一が腕の隙間からうっすらと目を開け、蘭の姿を認めた途端、それまで気怠そうにしていた表情が嘘のように、ニヤッと悪戯っぽく笑った。 …え、やだ起きてたの?っていうか、その不気味な顔は一体なんなのよ…!? 蘭がそう思って身を引くより速く腕を取られ、彼の胸の上に倒れ込む。 「し…っ、新一ッ!」 慌てて離れようとするも、体をがっちりとホールドされて動くに動けない。そうこうする内に、くるっと位置を逆にされ、押し込まれるベッドの上。 「ちょっと…!」 「蘭…」 何だかまだ寝ボケ声で囁かれて、少し体重がかかって、新一の体温が感じられて、耳たぶに熱く吐息がかかって―――― 「…ッ、いい加減に、…しなさいッ!!」 「んぐぅッ!!」 ジタバタしながらも明確な蘭の膝蹴りが鳩尾にきれいにハマって、新一は体をくの字に折り曲げて悶絶した。 「ケホッ、ケホッ…オメー、なァ…っ!嫌がるにしても度を考えろよ…っ」 マジでヘコむじゃねーか、とほとんど涙目で今だ苦しんでいる彼の拘束からするりと抜けると、蘭はさっさと背を向けて戸口に立った。 「ふざけてる暇があるなら、すぐ起きて着替える!」 真っ赤な顔でコホンと咳払いして、乱れた髪と制服を整えて。 「簡単なものでよかったら、朝ゴハン作ってあげるから」 ちょっとだけ優しい口調で言ってやると、「おっ、やりぃ♪」と素直に喜ぶ声。 「分かったら早くしてよね」 とチラッと振り返った視界に、すでにTシャツを脱ぎ始める様子が映って、あわわ、と焦りながら寝室を後にした。 「もうッ、朝っぱらからいきなり、変な悪戯するのやめてよね!心臓に悪いったら…」 学校までの道すがら、蘭はまだプリプリと非難の言葉を漏らしている。 「あー、だから悪かったって!寝惚けてたんだよ。いーい気分で寝てたから、つい…な」 …ンだよ、ちょっとくれぇいいじゃねーか… 新一は心の中で舌打ちした。もとより、悪戯なんかのつもりではなかったのだ。 せっかくいい夢を見ていたのに。いいところで起こされて。目の前に、その夢で見ていた愛しい顔があったら。 続きを…なんて望んでしまっても仕方ないではないか。 せめて夢の中で。それが夢じゃなかったとしても。むしろ、現実なら尚更のこと。 足止めを食らった分、今より先に、前に進みたい、と思ってしまうのは自然な成り行きで。 「どうせ変な夢でも見てたんでしょう?」 「変とは何だよ、変とは」 「じゃあ、どんな夢だったの?」 問われて、新一は前を向いたまま口ごもってしまった。 「ちょっと、どうなのよ」 「…聞いたら、多分オメー怒るぞ」 「怒んないよ。だって、夢でしょ」 「・・・・・」 ケロリとした顔で言うので、このまま白状してしまおうかと逡巡し、グルリと周囲を見回して。 「こんなトコでじゃあ、言えねぇな」 「…どっ、どんな夢なのよッ!!」 もうすでに怒ってんじゃねーか… 思わず拳を握り締めて詰め寄る蘭に、新一は、やはり言わなくて正解だったと口を閉ざした。 END -------------------- あとがき。 後半に長々しいポエムがあったんですが、削りました…むしろ潔いくらいの全カットで(汗)そこのポエムありきでこのタイトルだったんですけどね。つじあやのさんの「Shiny day」のイメージだったはずなんですが。(菅野美穂さん出演の梅酒のCMソングです)どっちかというとAKB48の「Baby!Baby!Baby!Baby!」な感じになりました。 そもそもは膝蹴り食らってのたうつ新一が書きたかった(鬼か) 新一が見ていた夢の内容は…ご想像にお任せします(自主規制) |
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