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CAN'T STOP LOVE ♥♥ ---------------------------------- ある日、また突然に帰ってきた新一は、しかしいつもとは様子が違っていて。 疲れ切って重たく引きずる体。痛むのか時折、細める瞼。それでも自信げな眉は変わらず彼らしさを保っている。 そしてその瞳には、力強く真っ直ぐな光が込められていた。それが蘭を、彼女だけを映して。不敵に笑ったかと思うと、倒れ込むように崩れる膝。 慌てて駆け寄って支えた蘭を、そのままの姿勢で抱き締める。 「し、新一ッ…!?」 「蘭…」 無理をして首を動かし、顔を合わせ、絞り出すような声で、だがしっかりと届くように揺るぎない口調で。 もう、心配いらない。これからはずっとそばにいる、と。 二度と離れたりなんかしない、と告げて、蘭の腕の中で彼は意識を失った。 最初は半信半疑だった。 また、いつかのように知らぬ間にいなくなってしまうのでは、と。繋いでいたはずの手をすり抜けて、笑って駆けて行ってそのまま消えてしまうのではないか、という思いが頭から離れず、今日の終わりが不安で仕方なかった。 けれど彼の言葉通り、朝迎えに行けば家からちゃんと顔を出したし、学校へ向かう道も互いの家へ帰る道も。隣を見ればそこにいて、並んで歩いて、いつかは当たり前だった風景が戻ってきたことに、一週間ほど経ってようやく。安堵と実感を伴った現実として信じることができた。 手を伸ばせば届く距離。視線が合う、安心感。繋いだ手の温もりに、くすぐったさと心地好さ。 もう、いきなりいなくなってしまうことなどないのだ。そう、彼は約束してくれた。今までは破られることも多かったけれど…きっと、あの言葉に嘘などない。それほど思い詰めた、真剣な顔つきだったのだから。 少しの気恥ずかしさにも慣れた頃、そんな帰り道。なぜだか右側を歩く新一がどことなくソワソワしていることに気付いた。 どうしたんだろう…? 休学していた間の、足りない出席日数をカバーするための補習やら何やらもきっちり受けているし、何よりあれ以来は休まず登校している。元より頭の構造が人より飛び抜けているから、受けていなかった間の授業も遅れをとっている心配はない。ただ、いくつかの重要なテストを受けられなかったことが問題になったようだが、それは内容を変えて受け直すことで解決したらしい。進学は大丈夫だろう、と学校側からも言われているし。 だとすれば、他に何か不安材料はあるだろうか。 もしや、また事件の依頼でも来ていて、行きたくてウズウズしている、とか…? ここしばらくはそういった話を聞いていないし、学校でも放課でもほとんど蘭と一緒にいる状態だった。恐らくは、ずっと待たせてきた蘭のため。彼女に、自分がもう目の前から消えたりしない、ということを証明するため。だが… きっと我慢も限界なのだろう。三度の飯より推理好き、事件と名の付く所どこへでも。 そんな彼だから・・・・・ 「あ、あのさ…蘭」 「いいよ」 「え?」 意を決して、といった表情で顔を向けた新一に蘭は優しく微笑んで。 「新一のこと信じてるから。だから…わたしなら平気。今更もう、驚かないしね」 本当は、まだちょっと不安だけど…と小さく言うと、彼はひどく改まった顔をした。 「んじゃ…」 蘭の前に進み出て、肩を掴み、瞳が覗き込んできて… 「…え、え?あっ、あの、ちょっ…ちょっと!!」 思わずその体を手で押し返した。 …あれ、これって何だか…デ・ジャ・ヴ? 「…何で止めんだよ」 新一はいかにも不満そうな声。 「いいっつったじゃねーか」 「…い、言ったけど、何?どういうこと??」 「それはこっちが訊きたい」 何か行き違いがあったようだ。 彼はどうやら…というか明らかに。いつかのように身長を測ろうとしていた訳でも当然なくて、いわゆる…今度こそは本当に。 「どうして急にそうなるのよ!」 「はぁ!?」 こっちは最初からそのつもりだったんだけど、と拗ねたような口振りで言われて、蘭は自分が勘違いしていたことに気付いた。それも今までと逆のパターンで。 彼が推理バカなせいで、それ以外のことでまで振り回されることになるとは。っていうか、こんな往来でその気になることじゃないんじゃないの!? 「困るわよ、そんないきなり…」 「いや、いきなりって言うか…あー、こっちはずっと迷ってたんだけどな、戻ってきてから」 髪を掻きながら新一は、あん時は気ぃ失っちまったし、そっからはタイミングが…とか何とかブツブツ言っている。 これでどうして、推理のときにはあれほどスマートな語り口を展開するのに。 「だって…だって」 睫毛を伏せて、言おうか言うまいかずっと胸に抱えていた思いを、蘭は思い切って口にした。 「わたしと新一って、その…どういう関係、なの?」 「へ?どういうって…」 「つ、付き合ってるとか…恋人とか、そういうことになるの、かな…?」 「・・・・・・は?」 意外な質問をされて、新一は気の抜けた声を上げ、複雑な顔つきで。 「…オレ、言ったよな?ロンドンで。…まさか無かったことにする気じゃねーだろうな!?」 「そっ、そうじゃなくて!あの…あのときも何だか突然だったし、それで…返事も何も出来なかったし、今だってまだ…」 語気を強めながら迫られて、肩を竦めてシドロモドロに答える。 確かに、あの言葉はとても嬉しいものだった。いつも核心に近付くと、はぐらかすような雰囲気になってしまうのが常だったから。お互いに。幼馴染ゆえに。 だから突然の告白は。喜びというより衝撃で。 次に会ったらどういう顔していいのか、何て言ったらいいのか、そもそもこれは真に受けていいのか?とさえ思ってしまって。何だかドサクサ紛れだったような気もするし。 彼が帰ってきてからも、どう切り出していいのか分からないまま。向こうも何も言ってこないし。訊かない方がいいの、かな…?なんて。 ただ、帰ってきてくれた…そのことが夢のようで。一緒にいられるだけでも充分、幸せな気がして…今はまだ、幼馴染のままでもいいか、なんて考えていたくらいだったのだ。 お互いにお互いの気持ちは分かっている。きっと、言葉にこそしていないが、彼にも伝わっているだろう。それでも… まだ、はっきりとは言っていない。きちんとは聞いていない。そうしたプロセスを経た覚えがない以上、幼馴染を卒業したといった実感はなかった。 古臭い考え方かもしれないが、何となくという不確かな感覚だけでずるずると先へ進みたくなかった。 「新一ばっかり納得してて…ズルイ。わたし、新一に何も言えてないのに…なーんかケロリとしちゃってて。そりゃあ、もうどっか行かないって言ってくれたし、焦ることもないのかな、って思ってたけど…」 ずっと待っててくれた。それが答えになるのかもしれないけれど。本当の気持ちは…こっちがどう想ってるのかなんて、分かるはずないと言っていたのはそっちではなかったか? それなのに勝手にその気で、先進められて。ずっと待ちぼうけだった挙句に、今度は置いてけぼりにでもされた気がしてしまう。…これは、我が儘なんだろうか? 「あの言葉だって、わたしが強引に言わせちゃった感じだし、その場の勢いってやつじゃないの?新一ってそういうトコ、あるしね」 「じゃーねーだろ、あん時は…」 顔を合わせるつもりさえなかった。『新一』として姿を見せるつもりも。 一度は、いや何度か口にしようと思った言葉。 けれど、待つことに傷ついて無理して笑って…痛みを隠している姿を見たら…それを告げることすら罪なように思えて。 新一としてそばにいてやることもできないのに。会いたくても、会いたいときに会えないのに。半端な期待で縛り付けて、ますます彼女を苦しめることになるのではないか――― だから、言えずにいた。 仮初でも一時的でもなく、正真正銘の『オレ』に帰れたら、その時まで蘭が自分のことを想ってくれていたのなら。そのときはきっと、本心を打ち明かそうと思っていた。 それまで待っていてくれ、なんて調子のいいことも言えなくなって…なのに。あの日。 初めて、思い知った。彼女の気持ちがどれほど強いものか、深く確固たるものであるか。自分が思うよりもずっと。想像も出来なかったくらいに。 確かな証もないまま先延ばしにして、宙ぶらりんな状態で待たせることの方がよっぽど辛いのだ、と。そのときまで気付けなくて。 異国の地で。泣きながら走り去ってしまう彼女を、振り向かせたくて。その後ろ姿を捕まえたくて。このまま、別れたくなんかなくて。 思わずポロリと、胸の内から転げ出てしまった、本音。 結果的に、それは蘭の心を幾ばくか楽にしてくれるものになったようで、そういう意味ではよかったと言えるのだが。 …もしかして、あれだけじゃダメなのか…? 「もうちっと気の利いたセリフでも言えってことか?」 「…ううん、言い方じゃなくて、ね」 「シチュエーションが気に入らねーと?」 「だからぁ、そういうんじゃないってば!」 蘭は自分でもどうしたいか分からないという風に、困った顔をして、つま先で地面をコツコツ突付いたりしていたが、眉根を寄せた新一の顔をすっ、と見上げた。 「もう一回、言って?」 「ん?」 「やり直して欲しいの、もう一回…聞かせて。今度はわたしも、ちゃんと答えられると思う」 「あ、ああ…」 「ずっと幼馴染だったから…長い間。そこを乗り越えるのって、勇気いると思わない?」 彼女には珍しく意地悪っぽく、だが、これまで幾度と見てきた柔らかい笑顔を浮かべて問われては、新一に他の選択肢があるだろうか。 「…それにゃあ、下準備がいるな」 「え?」 「今夜8時、米花センタービル展望レストラン!首洗って待ってろッ!」 「え、そ、それって…新一!?」 いつかと同じ場所を告げて、タッと駆けて行ってしまう。「めいっぱいオシャレしてこいよ!」なんて手を振りながら。 これも…デ・ジャ・ヴ? 「もう〜…」 下準備って一体何なんだろう?と少し赤くなった頬を傾けながら、呆然とその影を見送る。 それにしても、なぜ彼も。彼までも。 あのレストランにこだわっているのだろう? ホールの店員に聞いた『伝説のカップル』の話が脳裏に浮上する。 「ま、まさか…ね」 蘭が一人で乾いた笑いを浮かべて百面相していると、遠くから風に乗って聞こえて来る、声。 「蘭!」 空耳かと思って顔を上げた次の瞬間には、遥か向こうに立っているのが見えたと同時に、まるで爆弾でも投げつけられたような衝撃。 「惚れ直させてやっから、覚悟しとけッ!!」 「ちょ、ちょっと!そんなこと大声で言わないでよッ、バカ!!」 通行人が奇異な目で叫んだ新一と叫ばれた蘭とを眺めて通り過ぎていく。 その視線に耐えかねて、蘭も走り出した。 このことを園子がもし知ったら、嬉々としてネタにして突付きまわすんだろうなぁ…なんて気を逸らすことを考えながら。 とても追いつかないだろうと思うけれど、眩しいその背中を追った。 もう、これからは。 待ってるだけなんてことはしないんだから。 END -------------------- あとがき。 原作でどこまで展開してるかが現段階で把握できてないのですが、蘭がまだ返事くれてないって時に考えた話なので許してくだされ。もしかすると決着つく前に蘭がコナン=新一だと気付くフラグが立つとの噂も…まぁ、それはそれで、これはこれ、ということで。 ロンドンのアレはアレでいいんですけれども、私としては個人的にやっぱりあのレストランでの告白をリベンジしてもらいたいと思ったので。和葉ちゃんはロマンティックって言ってましたが…多分、ビッグベンの前で告白された、って聞いたら、あの新一のことだからどんな小洒落た演出でもってサプライズしたんだこのやろう、とか想像しちゃうでしょうよ。 何かでも両親のジンクスになぞらえてトライ!の方がロマンスじゃないですか?プロポーズはそこでやってくれよ(笑) あのときの新一の態度がじれったすぎて、未だに私の中ではヘタレイメージが強くて…キスぐらいで悩まないで、再会のその勢いでぶちゅっとかましたれよ、という感じですね。 タイトルはTWO−MIXのアルバム『FANTASTIX』に収録されてる曲から。コナンでは『BREAK』が使われていましたが、内容的にこっちの方が近いかな、と。 |
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