そんな彼女と彼の日常

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「あッ、痛ッ!いたた〜!!」
 数歩後ろを歩いていた和葉が大袈裟な声を出して、振り返ると、立ち止まって目をごしごしとこすっていた。

「何やっとんねん」
「ん、目ぇ変なったんやもん…何か入ったんかも」
「オイ!眼球こすったらアカンて、傷んなるやろ。バイ菌入るからやめぇや!」
「やって痛いぃ〜目ぇ開かへん〜ッ」
「睫毛でも刺さったんちゃうか?」
「さ、刺さっとるって…!?」
「ちょお、見せてみ…」
「うううー…っ」
 近付いて行って屈んで、和葉の赤くなった下瞼に指をやり、覗き込もうと顔を寄せた瞬間。

「いっ、イヤやッ!平次、何すんのんッ!!」

 ギュッと目を瞑っていた和葉が、急にジタバタと騒いで、平次を突き飛ばした。
「何って…お前が何やねん!?」
「やって、鼻息が顔にかかったんやもんッ!!まさか、ドサクサ紛れにキスされるんちゃうかって思って…」
「アホッ、そんなんするかッ!!」
 何をワケの分からん勘違いしとんねん、と平次は呆れて、それでもまだ辛そうにしているから。
「ほんなら、目ぇ明けとけや。どうかなってへんか確認したるわ」
 そう言われて、平気な方の目だけ開けて。

 先程より少し距離をとって、平次は痛がる方の瞼を指で広げ、目線を合わせて、じっと注意深く見つめた。真剣な眼差し。その瞳に映る自分の姿…

「おー、充血しとるなァ。睫毛でもなさそうやけど…」
「…やっぱコレもダメぇぇぇッ!!!」

 ドーンッと二度目の衝撃に、平次は少しよろめいた。

「おっ、お前…何やっちゅーねん、さっきっから!!」
「もうええから放っといてや!」
 痛みのためか、片目からポロポロ涙を零しながら、そんな強がりのセリフを吐く。

 ややこしい女やなァ…

 本気で置いていこうかと思った矢先、和葉がすっと左手を出した。
「…家、帰って洗うわ。連れてってぇな、平次」
 っとに。
 わざとらしく溜め息をついて、平次は和葉の手をとり、少し大股でグイグイと引っ張っていく。

 ホンマに世話の焼けるやっちゃなァ!他の奴やったら、付き合いきれへんて見捨てられるで!?

 心の中だけで呟いて。
 結局、こいつの面倒見れるのなんか自分だけかもしれない、などと思いながら。
 それもそう嫌でもないな、と感じている自分に気付いて。
 平次は、複雑な顔を見られまいと、和葉が慌てるのもお構いなしにズンズンと足を進め、細い指を包んでいる己の手に力を込めた。




 END



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あとがき。

ショート・ショートのつもりで書いてたんですが、割と文字数が多くなったのでSSということにしときました。

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