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雨色パラソル ---------------------------------- 雨の日に憂鬱になるのは、稀有なことではない。 日射しの届かない薄暗さだとか、じっとりとまとわりつく湿度だとか、しとしとと終わらない雨音だとか。 何となく思い詰めた空気に辟易するのは、家の窓から外を見た時の、閉じ込められたかのような閉塞感からだろうか。 自然と重たい息が口をついて洩れる。 本当は…雨だからって訳じゃないけど。 雨のせいってことにしておこう。 こんな日は、色々と余計なことを考えてしまうから。 そういえば――― ふと、思い出したかのように、蘭は伏せていた顔を上げた。 いつの間にか、傘が一本無くなっていた。そのことに気付いたのは、いつの雨の日だっただろうか。 そうだ。 あの日も雨が降ってた…――― 密かに想いを寄せていた幼馴染が、忽然といなくなって。 まるで入れ代わりのように、小さな少年と出会った、あの日。 傘を広げて。どしゃ降りの中を。必死で。彼の家まで駆けて行って。 濡れた肩がひんやり寒くて。だけど―― 帰りに握った小さな手は、とても温かかったっけ。 ああ、だからか。 傘を、忘れてきたのは。 冷たい雨粒から体を守ってくれて、大事なものなのに、雨が止んでしまうとその存在を忘れてしまう。 いつかわたしも『彼』を忘れてしまうの―――? 雨が降った時にしか、思い出せなくなるの―――? 忘れたくなんか、ないのに。それとも…忘れたいのだろうか。 大きな水たまりに、何もかも落としてしまって・・・・・ 「雨、止まないね」 物思いに耽っていたせいか、急にかけられた声にビクリとして、しかしすぐに笑顔で振り返る。 「そうね。せっかくの日曜日なのに」 「あーあ。ボク今日、光彦たちとサッカーやるって約束してたのになぁ」 頭の後ろで腕を組んで、心底残念そうにぼやくから。思わず蘭は、その姿に苦笑した。 時々、この子の言動が演技のように思えることがある。 それは――『彼』がたまに使う”手”だったからだ。 泣いている自分を笑わそうとするとき。元気のない自分を励まそうとするとき。イライラしている自分を宥めようとするとき。 それがわざとやってるだなんて、ずっと気付いていなかったけれど。 長い付き合いで、今では何となく分かるようになってきたのだ。 それが多分、『彼』の優しさからきているのだということも… 「コナン君って、新一に似てるのよね」 クスクス笑って言うと、少年は「え?」と戸惑ったような声を上げた。 「新一はね。こんな日でもサッカーやっちゃうような奴だったのよ。それで風邪ひくんだから、本当にバカよね。無茶ばっかりして…」 心配するこっちの身にもなって欲しいわ、という呟きは、独り言のように吐き出されて、窓を白く曇らせた。 「コナン君は見習っちゃダメよ?」 「う、うん…」 幼い割に回転の速い頭で、何を考えているのだろう。 どことなく微妙な表情で、コナンはこくりと頷いた。 雨が止んだら。帰ってくるなんてことはないだろうけど。 この永く続く雨が、どうか…いつか止みますように。そのときはきっと、笑える気がする。 「雨があがったら、一緒に買い物に行こっか」 「ウン!」 こんな日がなければ。 太陽の眩しさに気付けないかもしれないもの。 大きな水たまりは、きっとその存在を思い出させるためにある。 あの傘は、忘れたんじゃなくて、置いてきたの。 いつか、それを見つけて。その手で、返しに来てくれる日を心待ちにしている。 晴れた日に。傘を持って。逢いに来て。 そうしたら、わたしは。 今度は日傘をさして逢いに行くから。 END -------------------- あとがき。 失恋の歌…かもしれないんですが、平和でお知り合いになった方から新蘭っぽいというリクエスト頂いて、そう言われればそうも聴こえるなぁ…と。曲調もポップなので前向きなイメージで。「雨降って地固まる」みたいな。 色んな雨の歌がごっちゃになってしまった気がしますが…(LINDBERGの「RAINY DAY」とか、桜井智さんの「逢いたくても逢えない」とか) 新一が最初に幼児化したときに、家に来た蘭がさしてた傘。帰りに持ってなかったのでどこいっちゃったんだろ?と思って。雨止んでたし、コナンと手をつないでたから忘れたんだな、と。 いつでも取りに行けるけど、あえて置いておくっていう(*´ω`*) パラソルって日傘なんですけどね(^_^;)でも歌詞では雨傘のような表現をしていたから、いいか。 |
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