Strawberry Jam

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 朝、冷蔵庫を開けると。
 見慣れないものが視界に飛び込んできた。
 怪訝そうに手に取って、ああ、と思い至る。

 お節介な、幼馴染のことを。



 昨日、学校帰り。
 並んで歩いていた蘭が、突然、切り出してきた。
「これから夕飯の買い物に行かなくちゃいけないんだけど。新一、付き合ってくれる?」
 一人息子を置いて海外に行ってしまった両親のおかげで、自分の生活は自分で何とかしなければならない。そろそろ自分も買出しが必要かもしれない、と新一は考えて。
 特に異存もないので、二つ返事でOKを出す。
 蘭は蘭で、ぐうたらな父親と二人暮し。別居中の母親に代わって、家事なんかも完璧にこなす。お互い高校生だってのに、よくやってると思う。
 ただ、それはあまり苦ではないのだ。
 蘭は料理も得意だし。
 …いい奥さんになれるよ、ホント。
 だがしかし新一はというと。掃除や洗濯ぐらいなら、そこそこ何とかなるが、料理はからっきしダメだった。元々あまり、する気もないのだ。


 制服姿でスーパーに寄り道。
 周りの視線が微妙に気になるところだけど、悪くない。
 クラスメイトに、夫婦だの女房だのとはやし立てられれば照れ隠しにごまかすが、こうしていると、そう言われても仕方がない、と思ってしまうほどしっくりくる。
 長年連れ添った…という意味では、まぁ当たってはいるのだし。
 まるでベテラン主婦さながら慣れた手つきで、野菜やら肉やら調味料やら、いわゆる『食材』をカゴに入れる蘭に対して、新一は出来合いの惣菜とか、インスタントとか、冷凍食品とか、あまり調理を必要としないようなものばかりを放り込んでいく。見かねた蘭が、心配そうな顔つきで。
「もうー相変わらずね。ちゃんと食べてるの?そんなものばっかりじゃ体に悪いじゃない」
「うっせーなァ…できるもんならやってるよ」
 表面的には毒づいてみせるが、内心では。
 そんならオメーが作りにきてくれりゃいいじゃねぇか、なんて思ってみたりもする。
 実際、蘭は時々、作りすぎたとか何とか言ってお裾分けを持ってきてくれたりする訳だが。
 正直、飢えているのだ。あの食べ慣れた味に。

 『コナン』だったときには、当たり前のように口にしてたもんだからな…

「朝はどうしてるの?」と訊かれれば。「テキトーにパン焼いて食ってる」と。
 呆れた、と溜め息まじりに呟く蘭。
 卵とベーコンくらい焼いてみるとか。そのくらいやればいいのだが。どうにも面倒で。
 これが事件だとか謎解きだとかになれば、どんなに手間がかかっても労力を惜しまないだろう。
 新一って本当に推理とサッカーバカなのね、という蘭の小言が聞こえてくるような気がして、新一は肩を竦めた。
 すると彼女は、やおら思いついたように脇へ入っていった。カートをそのままにしていくので、「おい?」と声を掛けたが、仕方なく番人になっていると。
 すぐに戻ってきて、「はい」と何かを新一のカゴに入れる。コツン、と小さな音が響いた。
 拾い上げてラベルを見る。冷たいビンの感触。赤と白のデザインの真ん中に。
 ”Strawberry Jam”の文字と苺の絵。
「何だよ、コレは?」
「たまには違った味のものもいいんじゃないかなぁって。朝、甘いものを食べると頭が冴えるって聞いたことあるし」
 そんなことは知っているが。つまりは何か?これをパンに塗れと?一人で頑張れってことか?
 …あぁ、そう。オメーが朝ゴハン作りに来てくれるっつーおいしいイベントは発生しないワケね。いや別に期待してたとかじゃねぇんだけどな!
 不貞腐れてみても鈍い幼馴染は。鼻唄すら歌って、やけに上機嫌で。
 その後も何事もなく、あっさり別れて。一夜明けて今に至る。

 新一はビンを手にしたまま、しばらくそれを睨みつけていたが、やがて諦めたように食パンをトースターにセットし、コーヒーを淹れ始めた。このコーヒーだけは蘭をも唸らせる腕前なのだが。
 …いつか二人でモーニング・コーヒー、なぁんてな…
 とか一人で勝手に顔を赤らめていたら、何だかひどく空しくなった。


 チクショー、これじゃ前と全然変わってねぇじゃねぇかよ。
 っていうか、アレは!?ロンドンでオレ…言ったよなぁ…!?
 確かに返事も何もなかったけど…
 こういうのって、きちんと改まって「付き合ってクダサイ」的なこと言わねーとダメなのか!?
 …やっぱ言って欲しいワケね、オレに。



 甘い物が特別、苦手だということもないが。
 …どうもなァ…
 紅く澄んだ可愛らしい色合いとか、鼻をくすぐる香りだとか、『青春』などとよく比喩される甘酸っぱい味とか。それらがどことなく”女の子”を感じさせるようで、気恥ずかしさを覚えてしまう。
 けれど、もし。彼女が朝、トーストにこれを塗って差し出してくれたんなら。
 迷わず口にするんだろうに―――


 …って、さっきから何考えてんだか!ちょっと…いや、かなり変だぞ、今日のオレ!!

 自分では絶対にチョイスしない物の存在が、それを選んだ彼女の姿を浮かび上がらせる。
 しかもそれが嬉しいから、むしろ困る。

 …だけど、あぁ。
 夢見ないではいられない。


 目を覚ました、その先に。



 君の笑顔とコーヒーと。
 トーストの横には・・・・・君の選んだ苺ジャム。



 END



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あとがき。

ぎゃあぁ誰これ!?イマイチ新一のキャラがつかめてないんだよなぁ…(汗)
ドリーミィなくせに煮詰まらない奴でごめん…私の中ではヘタレイメージが強いのかも。
ただ元に戻ったら、これまでに積もり積もったものがあるからソッコー告って、学生結婚とかしそうな勢いな気がするんだけどね…ロンドンのやつ、うやむやにしちゃってすいません。恋人になる前の苦悩する新一が書きたかった…
歌詞からもちょっと飛びましたし。この曲は本当は、同棲か新婚の甘〜い感じなんですよ。(つーか、新一目線な時点ですでにオカシイが)うーん、復活前設定の方がよかったか。
あとこのページのタイトル、歌詞の一部なんですがすでに違う(新一って甘党じゃないよ…な?)
47巻の手品の事件のときに、新一(コナン)と平次は料理ダメっぽかったんで、新一どうやって生活してたんだろ?って思ったらこんな感じに…あのとき和葉ちゃんにぎゅっとされてるコナンに対しても妬いて欲しかったな、平次。
それにしても、小学1年生(和葉ちゃんにとっては)に手伝わせるのも、どうかという気もしないでもない…
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