Side平次

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 やっぱり連れてくるんやなかったわ…

 鳥取県を後にして、バイクを転がしとる最中、何度目かの後悔に舌打ちをする。
 これまで、たまたま偶発的に起こった事件に巻き込まれたんはあったけど、今回は一緒に行くつもりやなかった。工藤たちと会うたんはラッキーやったかもしれん。その油断もあったんも否めへん。結果的に…ああいうことなってしもてんやから。

 タイミングが悪かったんや。鳥取の山奥、なんてさすがのオレでも土地勘はない。
 和葉があまりにも、「その辺やったら任せといてぇな!ねぇ、絶対役に立ったるから連れてって!!」言うて必死やったから折れてしもた。「ほな、頼むわ」って軽く言うた自分をどついてやりたいわ。例え泣かせてでも置いてくるんやった。
(後で気付いたんやけど、こいつ多分…阪南市の鳥取や思うとったらしい。…アホちゃうか)



「なァ、平次!」
 後ろで和葉が何か叫んどる。
 あんなァ、オレ今めっちゃ機嫌悪いねん。お前のその声、聞いただけでムシャクシャしよる。
 腹立つからシカトしたった。
「平次!…ごめんな!?それから、おおきに!助けてくれて…ッ」
 その声は今にも泣きそうや。
 何がごめん、や?分かっとんのか?オレが怒るの、当たり前やで?しっかり反省せぇ!
 って、…アカン。こいつに当たっても、全然スッキリせぇへん。
 こいつが、悪いわけとちゃうし。オレはオレ自身が許せへんねん。
 ホンマ、しゃあないわ…
 服がシワになりそうなくらいに掴んどった和葉の手ぇに合図して。
「寄り道すんで!」
 まだ時間も早いし、急ぐ用もないねんからかまへんやろ。
 和葉は分かったんか分かってへんのか、黙っとった。


 砂浜に下りると、和葉は「キラッキラや!めっちゃ綺麗やなァ…」ってアホみたいにはしゃぎよる。
「朝の海もエエもんやろ?和葉」
 これが海水浴シーズンともなれば、バカな連中どもがこぞってやって来おって騒がしゅうて敵わんわ。風が少し冷たいくらいの今が一番エエ時期や。何も考えんと、静かに海眺めるんには最適やからな。
 オレは黙って腰を降ろして、波が寄せては返すんをボーっと見とった。それに気付いて、和葉もオレの真似して隣に座った。
「こういうでっかいもん拝んどるとな、自分の存在が何や…ちっぽけに思えへんか?」
「な、何なん?平次、急に…らしないで?」
 放っとけや。せっかく人がええこと言うとるんに、台無しや。



 ・・・・・ホンマは、背筋が凍りそうやった。あの時…和葉のあんな姿、目にして・・・・・

 薄暗い蔵の中。壊れた操り人形みたいに糸で括られて、ダラリとうな垂れて吊るされて…
 名前呼んでも、すぐには気ィ付けへんかった。何度、呼びかけても。
 このまま…目ぇ開けへんのとちゃうかって、一瞬…襲ってきたんは。とてつもない恐怖と自責の念。
 何でこんなとこ連れてきたんや…何でオレがついていながら、こないな目に遭わせてしもたんや…
 こいつが…こいつが死んだら。オレもう、どうしてええか分からへんで・・・・・
 目ぇ覚ますまでの時間が恐ろしゅう長ぅ感じられて。
 手下すんやったらこいつやのうて、オレに直接せんかいって犯人の奴を呪った。

 その和葉が。いつもと変わらん様子で、いつものようにオレの隣におるっちゅー事実と。
 目の前に広がる爽やかな景色とが、ようやく俺の心を静めさせてくれた。
「…海はエエ。何もかんも洗い流してくれるようや」
 ちょいクサいか?せやけど和葉は何も言わんで、砂に何か書いとる。
 まさかオレの悪口ちゃうやろな?

 気ィ付いたらいつも傍におって、良いも悪いも何もかんも知っとって。それでいて、やっぱりホンマの心では、何考えとんのかなんて分かれへん。こいつでさえそうなんやから、他人の気持ちなんぞ、よう知らん。
 謎を解くこと自体は楽しい思うけど、その裏にある犯人の心理には、面白いことなんかひとっつもあらへん。殺人が起こる前に止めるはずが、まんまとやられてもうて、おまけに和葉まで…こんなとき、自分がどーしよーもなく無力に思えて仕方ないんや。解決したはずやのに、何やまだ胸にモヤモヤが引っかかっとる。
 オレと一緒におるっちゅーことは。この先、こいつをまた暗闇に近付けることになるかもしれへん。…いや、必ずそうや。ほんでいつか、この手で守り切れへんことがあったとしたら…

 隣で和葉が動く気配がした。
 何を思ったかそん時。オレは思わず、和葉の手ぇ掴んでしもた。
「お前、どこ行くねん」
 アホか、オレは。行くなって言うてるようなもんやんけ!
「ど、どこって…別に、どっこも行かへんよ?」
 バツが悪ぅて目合わせられへんけど、オタオタしながらも和葉が再び腰を落ち着かせたことに安堵する。
 もう大丈夫、と気が緩んで和葉の手を開放してやった。そしたらこいつ、パッと立ち上がって、あろうことか抱きついてきよった。
「おっ、わッ!?何すんねん、やめぇや!!」
 何やこいつ。オレが引き留めたらんでも、自分の方から引っ付いてきよるんやな。
 いっつもいっつもオレと一緒におりたがって、俺の行くトコついてきたがる。その実…逆や。
 オレがこいつ、放したないんや。
 こいつが俺から離れていくワケないってタカくくって、その好意に甘えとるんや。
 肝心なこと言うて縛り付けることもできんと、宙ぶらりんのまま。
 …離れてしもたら、楽になれるんやろか…
 頭の片隅にフッと浮かぶそんな考えも。事件を片付けて帰ってきたときに目にする和葉の顔で、スポーンとどっかへ飛ばされてまう。
 きっと離れたら離れたで。新たな不安の種に悩まされることに変わりない。すなわち。

 …オレのいない所で、こいつに何かあったらどないしようっちゅー・・・・・・・・・・



 …あぁ、もう!笑うなら笑えや!!
 しゃあないやん!こいつ、昔っから危なっかしいねん!せやから!…せやから。
 オレがもっと強なって、こいつがどこにいても守ったれるようにしたらええんやろ!?
 …って、何や。結論出たわ…
 やっぱ海は…偉大やな。

「帰ろか、和葉」




 背中に無条件に預けられる重みと体温に、平静を取り戻した心がどんどん楽になる。
 案外、単純やな。男なんちゅーもんは。そう思ったらおかしなって笑ってしもた。
 和葉の顔が俺の体に寄りかかってくる。
「何や、眠ぅなったんか!?」
 返事なし。この状態で、ようウトウトできるもんやな。むしろ感心するで。
「寝るんはかまへんけど、ちゃんとしがみついとれよ!?途中で落っこってっても知らんど!!」
 そう告げると、和葉は反応したんか、腕に力を込めた。
 寝ボケとんのか正気なんか。
 まぁ、ええわ。きっとこいつは、寝とっても手ェ離さへんやろし。
 何故だか妙にそう確信して、オレはバイクの速度を上げ、風を切る轟音の中を突っ切って走り抜ける。

「和葉」
 …きっと聞こえてへん。今なら、聞こえんはずや。
 オレはメットの中で、自分に言い聞かすように呟いた。




「…放さへんで、オレも」




 END



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あとがき。

平次の話はこんなLOVEな感じにするつもりじゃなかったのに…何か暴走しました(誰が?)
原作では何だかのほほんとしてましたが…お気楽主義なのかな(^^;)もうちょっと心配してやってくれ…
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